電子取引データの保存の実務①
~宥恕措置の間に何をする?~(全3回)
取引先との間で取引情報を電子でやり取りする「電子取引」は、電子メールでの見積もりや発注、インターネットによる請求書や領収書の受け渡しなどが該当します。
このような電子取引に関する情報(電子取引データ)について、令和4年1月1日から、電子帳簿保存法において電子データによる保存が義務化されました。
ただし、宥恕措置として、令和5年12月31日までは、紙に印刷して保存することも認められます。
令和5年10月からは消費税のインボイス制度も始まります。その対応と合わせて、今のうちから、電子データでの保存に取り組むようにしましょう。本年は、電子取引の洗い出し等を行い、来年は業務フローの改善・デジタル化を進めるなど、段階を踏んで令和6年1月1日に備えましょう。
新型コロナ貸付の返済にどう対応するか?
新型コロナ貸付の据置期間が終わって、返済が始まる企業も少なくありません。現在の利益からどれだけ返済原資を確保できるか確認しましょう。
複数の借入で返済額が多くなる場合は、借入を一本化し、借入期間を延長して、月々の返済額を軽減することも検討しましょう。もちろん業績の改善も行わなければなりません。特に利益の確保は不可欠です。どのような時代であっても利益を出し続け、資金繰りが好転するような体質にすることが企業には求められます。
さらに、新たな融資が必要な場合は、新規借入を織り込んでも返済原資を確保できることがわかる資料を添えて金融機関に説明しましょう。返済の根拠が明らかであれば金融機関も融資判断をしやすくなります。
ポストコロナを見据えた中小企業の収益力改善等を支援!
コロナ禍において、売上減少や借入の増大に直面している中小企業を対象に、経済産業省では、金融庁、財務省等と連携し、「収益力改善」「事業再生」「再チャレンジ」というフェーズに合わせた支援策(中小企業活性化パッケージ)を実施しています。
「収益力改善」フェーズでは、税理士などの認定経営革新等支援機関による「早期経営改善策定支援事業」(ポスコロ事業)を見直し、ウクライナ情勢や原油価格高騰等に起因した影響を受けている事業者については、過去にポスコロ事業や「経営改善計画策定支援事業」を利用していても、再度利用することを可能としました。
「事業再生」「再チャレンジ」フェーズでは、中小企業活性化協議会による「プレ再生支援」「再生支援」「再チャレンジ支援」などが強化されました。
〇プレ再生支援:将来の本格的な再生計画策定を前提とした経営改善支援
〇再生支援:事業に収益性はあるものの財務上の問題を抱える事業者に対して、専門家を交えた抜本的な再生支援を実施
〇再チャレンジ支援:事業継続が困難な中小企業、保証債務に悩む経営者等を対象に、外部専門家が円滑な再スタート等を支援
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ますます重要となる適時・正確な記帳
会計帳簿の本質的な役割は、「経営者への自己報告機能」と「証拠力の確保」です。
自己報告機能とは、財産や借入の現況、売上や利益、資金繰りといった経営成績がわかることです。経営者の正しい経営判断のためにも、日々の記帳によって、常に最新の状況を把握できる状態にしておく必要があります。
証拠力の確保とは、企業自らが適時・正確に記帳した帳簿には、証拠力があり、信頼性も高いということです。例えば、月次の締め後はさかのぼって訂正できない、訂正したときはその痕跡が残る会計システムで作成された帳簿の証拠力は高くなります。証拠力のある帳簿は、いざというときに会社を守るだけでなく、税務当局や金融機関からの信頼性を高めます。
将来を見据え“種まき”をしよう!
コロナ禍によって大きく変わった人々の消費行動や認識などは、コロナ収束後も以前と同じに戻ることはないでしょう。そういう中で企業は、経営環境の変化に適合していかなければなりません。将来が明確でないのであれば、自社が望む新しい状況を創り出すことが可能です。将来なりたい会社像を描いて、それを実現するための戦略を考えてみましょう。戦略には「他社がマネのできない」「他社がマネをしたくない」自社の強みが必要であり、それを見つけることから始まります。
そしてその強みを活かすために、商圏、事業、顧客、商品・サービスの機能、品質、価格、納期、販売方法・ルート、設備・施設などに分けて、力を入れるもの、削減するものなどを検討しましょう。
社会保険の適用拡大と年金制度の見直し
令和4年度は、パートタイマー等への社会保険の適用拡大、在職しながら年金を受給する人についての年金受給の見直しなどが行われます。
○現在、従業員500人超の企業では、月額賃金が8万8千円以上(年収約106万円)など一定の条件を満たすパートタイマー等は社会保険への加入義務がありますが、対象となる従業員数が、本年10月から100人超に、令和6年10月から50人超にまで引き下げられます。
○特別支給の老齢厚生年金の支給停止基準が、報酬と年金の月額合計28万円超から47万円超に緩和されます。
○65歳以降も厚生年金に加入しながら働く人について、働いた分の年金額への反映を毎年(年1回、10月分から)行う在職定時改定制度が導入されます。
○年金の受給開始年齢は、従来70歳までの繰り下げが可能でしたが、4月から75歳まで可能になりました。
以上の改正は働く人たちの働き方にも影響を及ぼすものです。会社としても雇用について見直すきっかけにしましょう。
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中小企業の賃上げ税制はこうなる!
企業の積極的な賃上げを促すため、中小企業の賃上げ税制が強化され、賃上げの要件が、雇用者全体の給与総額の増加割合に応じて、次のようになります。
①前年度比で1.5%以上の増加:給与増加額の15%を税額控除(従前のまま)
②前年度比で2.5%以上の増加:給与増加額の30%を税額控除
上記①②のいずれかの賃上げを実施し、さらに教育訓練費を前年度比で10%以上増加させた場合は、税額控除率が10%上乗せされます。例えば、給与総額を2.5%以上増加させ、さらに教育訓練費を10%以上増加させると、税額控除率は最大の40%になります(法人税額の20%が上限)。
また、赤字など業況が厳しい中でも賃上げ等に取り組む企業向けとして、ものづくり補助金や持続化補助金において賃上げを要件とした特別枠が設けられます。
どうする!? この売掛金 ~滞留債権の対応編~
長期間未回収の売掛金は、消滅時効(5年)に注意しつつ、取引先への訪問や電話によって粘り強く交渉を重ねます。取引先に買掛金がある場合は、売掛金と相殺する対応が考えられます。相殺でも完済できなければ、残金の支払いについての協議が必要となります。協議では確実に支払うことの確約を得て、その内容は文書にしておきましょう。
また、催告書を配達証明付きの内容証明郵便で送付すれば、取引先への強い意思表示になるため、事態が進展する可能性があります。
法的手段としては、通常の訴訟に比べて手続が簡易な「支払督促」(申立てに基づいて簡易裁判所の書記官が相手方に支払いを命じる)や、「少額訴訟」(60万円以下の請求に限って利用できる)などがあります。
減価償却資産の基礎知識と令和4年度の改正点
減価償却資産は、原則として、取得価額をその耐用年数に従って按分し、減価償却費として費用計上します。ただし、取得価額が少額のものは、即時償却によって一時の費用として計上する方法などが認められています。
取得価額が10万円未満の減価償却資産や、中小企業者等が取得する30万円未満の減価償却資産は、一定の要件のもと即時償却が可能です。20万円未満の減価償却資産であれば、その資産の全部または一部を一括りにして取得価額の合計額を3年間で均等償却する方法(一括償却資産)も認められます。
令和4年度税制改正では、中小企業者等の少額減価償却資産の特例について、適用期限の2年延長の他、対象資産から「貸付けの用に供した資産」を除外する改正が行われます。
※10万円未満の減価償却資産や一括償却資産の対象資産についても同様の見直しが行われます。
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インボイス制度の素朴な疑問⑤
経理業務への影響と今、知っておくべき注意点は?
インボイス制度による経理業務への影響を確認しておきましょう。
①請求書等(請求書、納品書、領収書など)のどれをインボイス(適格請求書)にするかを決めます。また記載項目が追加されるため、請求書等の様式変更、販売管理・請求書発行システムの設定変更などが必要になります。
②インボイス制度では、消費税額の計算方法の見直しが必要なケースもあります。当事務所にご相談ください。
③制度の実施後は、受領したインボイスの記載項目を確認し、10%と8%の税率、免税事業者等からの仕入を分けて入力する必要があります。
④従業員に対し、インボイス制度の周知とともに、免税事業者等からの仕入の注意点も踏まえた経費精算ルールの見直しが必要です。
どうする!? この売掛金 ~売掛金管理編~
売掛金の回収には、日頃の管理が大切です。
まずは、請求の締切日と支払日、支払方法(振込、手形等)など、約定をきちんと把握しておきます。入金があれば、どの取引先か、請求金額と合っているか、約定どおりか、などを売掛金台帳で管理します。
売掛金が未回収の場合、その原因の確認が解決の決め手になります。自社の請求もれやミス、商品・サービスへの不満・クレームなど、売掛金が支払われない原因が自社にあるときは、顧客への早急な対応や再発防止策をとるなど、信用回復に努めましょう。
取引先において、納品後の検収が未実施、経理ミスなどの理由で支払いが遅れていることもあります。日頃から取引先とのコミュニケーションを図っておくことが大切です。
令和4年度から 成年年齢、年金、育休が変わります
~事業や暮らしにどう影響する!?~
令和4年度は、成年年齢の引き下げ、年金制度、育児休業などの改正が行われます。
○4月から成年年齢を18歳に引き下げ:18歳から親の承諾なしに契約が可能になります。
○在職老齢年金の見直し:4月から「60~64歳の在職老齢厚生年金」の支給停止基準が28万円から47万円に緩和されます。在職中の老齢厚生年金受給者(65歳以上)の年金額について毎年10月に定時改定が行われます(在職定時改定)。
○パート等への社会保険の適用拡大:10月から、従業員101人以上の企業で働くパートタイマー・アルバイト(学生は除く)は、月額賃金8.8万円以上や週の所定労働時間が20時間以上などの一定条件を満たすと社会保険への加入が義務化されます。
○介護・育児休業法の改正:4月から、育休取得等について個別の周知・意向確認などが義務化されます。10月からは子の出生後8週間以内に4週間まで出生時育児休業取得が可能となり、さらに育児休業の分割取得(2回まで)も可能になります。
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令和3年分 所得税の確定申告の準備
(1)個人事業者は、収入と必要経費を確認しましょう。
新型コロナ関連の支援金等をはじめ事業に関連して受け取った補助金等は収入になります。仕入、従業員給与、広告宣伝費など事業に必要な費用は必要経費になりますが、事業主のプライベートな支出など事業と関係のない費用は必要経費になりません。
店舗併用住宅の家賃や水道光熱費などは、事業用の部分を面積、使用時間など合理的な方法で按分できれば、事業に使用した分は必要経費になります。
(2)給与所得者でも給与以外の収入があると確定申告が必要な場合があります。
給与収入が年間2,000万円以下の給与所得者は、年末調整をすれば確定申告の必要はありません。ただし、同族会社の役員が会社から受け取った不動産賃貸料や貸付金利息、満期保険金、副業、資産の売却、海外資産の運用などによって収入を得た場合、金額等によっては確定申告が必要な場合があります。
インボイス制度の素朴な疑問④
免税事業者はインボイス制度へどう対応する?
令和5年10月からスタートするインボイス制度は、消費税の免税事業者にも影響があります。インボイス制度では、買手側が仕入税額控除を適用する要件として、売手が発行するインボイス等の保存が必要になります。インボイス等を発行できるのは、「適格請求書発行事業者」に登録した課税事業者に限られ、免税事業者はインボイスを発行することができません。
取引先が課税事業者の場合、取引自体の見直しなどを検討される可能性があります。まずは、事業の業況とともに取引先の意向を確認し、適格請求書発行事業者(課税事業者)になった場合の消費税の納税負担などの影響についても考慮して検討しましょう。
ただし、慌てて適格請求書発行事業者の登録を申請する必要はありません。令和4年中は、その影響を検証する時間に充てても、対応は十分に間に合います。
おさえておきたい! 新たな経済対策
政府の新たな経済対策(令和3年11月19日閣議決定)では、新型コロナウイルスで減収となった事業者向けの支援などが盛り込まれました。
〇新型コロナの影響で売上が減少した法人・個人事業者(フリーランスを含む)を対象に、売上高の減少幅に応じて、最大250万円の「事業復活支援金」(仮称)が給付されます。
〇政府系金融機関(日本政策金融公庫等)による実質無利子・無担保融資の申請期限が、「令和4年3月末まで」に延長されました。
〇新型コロナの影響で休業した企業に対する雇用調整助成金(特例措置)の申請期限が、「令和4年3月末まで」に延長されました。
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環境変化が著しい今だからこそブレない経営を!
大きな環境変化を経験してきた中で、さまざまな危機を力強く乗り越えてきた企業に共通するのは、経営理念に基づくブレない経営を実践していることです。
松下幸之助氏(旧・松下電器産業創業者)は、経営理念が根底にあって、人も技術も資金もはじめて真に生かされてくると話しています。稲盛和夫氏(京セラ創業者)は、経営理念によって経営者も躊躇なく経営に全力で打ち込めると説いています。他方、大企業だけでなく中小企業においても経営理念を追求し、安定経営を実現しているところはたくさんあります。
先行きの見えない今だからこそ自社の経営理念を見つめ直すことが大切です。また、経営理念を明確にしていない企業においては、創業の原点や自社の存在意義に立ち返ってみましょう。
令和4年1月1日から全事業者に適用!
電子取引の電子データでの保存が義務化
改正電子帳簿保存法において、令和4年1月1日から電子取引にともなう請求書等の取引情報は電子データで保存することが義務づけられました。中小企業においても、電子メールでの請求書、領収書等の受け取り、インターネットサイトでの会社物品の購入、電子決済サービスの利用など、さまざまな電子取引が行われていることでしょう。自社の取引の中で電子取引に該当するものがないか、しっかり確認して対応しなければなりません。
電子取引データを保存する際は、定められた保存要件に準拠しなければなりませんので注意が必要です。また、保存媒体としては、ハードディスクやコンパクトディスク、DVD、クラウド(ストレージ)サービス等があります。
インボイス制度の素朴な疑問③
仕入税額控除にはインボイス等の保存が必要
消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートすると、買手側は原則、売手側から受領したインボイス(適格請求書)等や、一定の事項が記載された帳簿を保存しなければ仕入税額控除を適用することができなくなります。つまり、インボイスを発行できない免税事業者等からの仕入は仕入税額控除の対象外となるので注意しましょう(令和11年9月30日までは経過措置あり)。
ただし、中古車販売業、質屋、宅地建物取引事業者など、個人(消費者)から販売用の商品を買い取る場合や、鉄道やバス等の利用料、自動販売機での購入(いずれも3万円未満に限る)などにおいては、一定の事項が記載された帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます。
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